※※はれんち注意。飛ばす方は三話へどうぞ。
※※一応飛ばしても話が続くようになっています。













 壊れ物を扱うようにそうっと、佐助はを抱き上げて、室内に入った。
「ほんと軽い。綿でも詰まってんじゃないの」
 やはりゆっくりと、その身を床へ降ろしながら、あえて軽い口調でそう言うと、腕の中のは小さく笑う。
「気になるなら確かめればいいだろう」
「・・・・・・もしかして誘ってんの、それ」
 口を曲げてそう言いながら、きちりと結い上げられていたの髪を解いた。
 艶やかな長い髪が、床に散るその様は、夜空を彩る天の河のようだ。
 今宵は幸村がいないから燭台に火も入れていない。
 暗い室内を照らすのは、障子の向こうのぼんやりとした月光のみ。
 の頭を抱えるように手を添えて、口づける。
「ね、口、開いて」
 そう言って、素直に薄く開かれた唇の内に舌を這わせる。
 腕の中で、の身体が跳ねたのがわかる。
 安心させるようにその背を撫でながら、それとは裏腹にいっそ獰猛に小さな口腔を犯す。
 その舌を探り当て、吸い出して甘く噛む、再びの身体が跳ねる。
 漸く唇を離すと、息を止めていたのだろうか、は酸素を求めるように浅い息を繰り返した。
「ねえ、」
 佐助はその喉元に口づけながら、言う。
「嫌だったら、言ってね。・・・・・・止められるかは、わかんないけど」
 は、自らに覆いかぶさる男の背に、腕を回す。
「安心しろ、このわたしに二言はない。どのような貴方でも、受け入れてみせよう」
「・・・・・・ほんと、アンタってば男前」
 呆れたようにそう言って、佐助はの着物の帯に手をかけた。





 その滑らかな肌が露わになるまでに、しばしの時間を要した。
 の着物が、貴族の正装だったからだ。
「ったく、何枚着てンの。重かったでしょ、こんなに着てたら。細いんだからさぁ」
 漸く現れた白い肌に唇を落としながら、佐助は呆れたように言う。
 時折喉を鳴らすような声を上げながら、は答えた。
「世の姫君よりはましだろう、十二単なぞ着た日には動けない自信がある」
「何の自信だよ、まぁこっちとしては女の着物の方が脱がせやすいけどさ」
 世の姫君の衣装は、枚数こそ多いが、腰の帯さえ解ければ脱ぐのが容易い作りになっている。
「・・・・・・脱がせたことがあるのか」
 腕の中から聞こえた、幾分憮然とした響きの声に、佐助は可笑しそうに笑う。
「何、妬いてくれてるの」
「単なる好奇心だ」
「素直じゃないんだから」
 腰のあたりを撫でていた掌が、の胸元に到達する。そのささやかな膨らみを押すように手を這わせると、ひく、との身体が反応する。
「大丈夫、こっちに来てからはこういうことはしてないから」
「ッひ、あ」
 その胸の頂を、指先で転がすと、の口から嬌声が漏れた。
 己の口から発せられたそれに驚いたのだろう、慌てたように口をふさぐその細い腕を、佐助は掴む。
「そっちはどう見ても・・・・・・、初めてだよね?」
「ち、知識ならある」
 どう見てもそれは強がりだ。
 しかしそれに気づかない振りをして、佐助は笑みの形に口を歪める。
「そう、それなら」
 掴んだの両腕を左腕でひとまとめにして頭上に押さえつけて、右腕を胸元に這わせる。
 の顔を覗き込んで、嗤った。
「遠慮なく」





 白い胸元に、小さく赤く、花のように痕を散らしていく。
 呼吸をすれば、肋骨が浮きそうなほど薄い彼女の身体に、我ながら苦笑した。
 自分の好みは、もっとこう、出るとこの出た、肉欲的な美女だったはずなのだが。
 月にいたころの自分は、流石に人には誇れないような日々を送っていた。
 食べたい時に食べ、寝たい時に寝て、気に入らない奴は殺して、気が向けばその辺にいる女を犯した。
 それがある程度許される立場だった(おそらく許される範囲を超えてしまったので、子どもの姿にされて下界に落とされた)。
 こと性欲に関しては、わかりやすくこちらを煽ってくれるような外見の女でなければ、とどのつまりは勃たなかったのだ。
 それがこんな、扇情的とはお世辞にも言えないような体躯に、どうしようもなく欲情する自分がいる。
「・・・・・・ッ、貧相な、身体で、悪かったな・・・・・・ッ」
 思っていることが悟られたか、潤んだ瞳で睨んでくるに、佐助はけろりと答える。
「うん俺も今吃驚してんの。アンタじゃなきゃ、こんな身体欲しいなんて思わないのに」
 そう言って胸の頂を口に含めば、はまた、仰け反って声を上げる。
「ッ、あ、」
 その痴態が、愛おしくて愛おしくて。
 いつしかの両腕を拘束していた左腕は、その身体を愛撫することに役目を変えている。
 もっと見せて。
 その身体の、こころの全てを。
 そうして、佐助の指が、先ほどからぴんと張ったままのの足を撫で、その付け根に達する。
「ッ」
 が息を呑むのがわかった。
 その、ぬるりとした感触に、佐助は柄にもなく安堵した。
 よかった、感じてくれている。
 片手間に女を抱くことしかしてこなかった佐助が感じる、初めての感情だったが、当の本人にそれを認識する余裕はない。
 そこを撫でるように指を行き来させると、途端にの身体が跳ね、突っ張るように腰を浮かせる。
「や、あッ」
「ここは、おんなのこが一番気持ちイイとこなんだけど、どう?」
「ッう、や」
「嫌?」
 聞くと、は息を詰めて、佐助を見上げる。
 今までに見た、どんな女より、劣情を誘う、表情。
「ッは、そんな顔しないで」
 そして、涙を溜めたの目元を優しく撫でる。
「な、にか、くる、怖、ぁ」
 息も絶え絶えにそう言うの、細い身体を抱きしめる。
「大丈夫、怖くないよ、俺がいるから、ほら息して、」
 そう言って背を撫でれば、漸くは薄く口を開いて、呼吸を再開したようだ。
 その唇に貪りつきたくなる欲望を必死にとどめる。今口づければ比喩ではなく彼女を窒息させてしまう。
「怖くない、怖くないから、俺のことだけ考えて、」
 言い聞かせるようにそう繰り返して、そこを擦り上げる指の動きを早くする。
「ひ、あ、」
「――俺だけ、感じて」
「あ、あァ、ア」
 がくがくと、の身体が戦慄く、限界が近いのだと知って、その身体をきつく抱きしめる。
 耐え切れなくて、ひっきりなしに嬌声を上げるその口を、己の口で塞いだ。
「ッ、ン――――!!!」
 一際大きくの身体が跳ねる。
 暴れるように戦慄くその体躯を抱きしめる。
 突っ張っていた両の足から力が抜け、その身体が弛緩しきってしまってから、漸く佐助は口を離した。
「ッは、」
 浅い呼吸を繰り返す彼女の身体を見おろせば、全身が桃色に上気していて、うっすらと汗をかいている。
 その身体から立ち上る、何ともいえない香りに、まるで酩酊するようにくらりと眩暈を覚える。
「っ、ごめん、ちょっともう無理、」
 いまだ快楽の淵を彷徨っているのか、返事がないのそこに、佐助は性急な動きで己の欲望を突き入れた。





「――ッ、イ、ああッ!!」
 それは、嬌声というよりはもはや悲鳴だと、佐助にもわかっていた。
 それでも、止められなかった。
「ッく、」
 一息に最奥まで達して、ぎちぎちと己を締め付ける感覚に、眉根を寄せる。
 いくら濡れていたとはいえ、未経験の身体をよく慣らしもせずに挿入すれば、きついのは当然だ。
「・・・・・・、」
 暴れる欲望を幾分か落ち着かせて、漸く佐助は腕の中のを気遣うことができた。
 耐えるように、眉間に皺を寄せて、浅い呼吸を繰り返している彼女の、すっかり血の気が引いてしまった頬をそうっと撫でる。
「ごめん・・・・・・痛い、よね」
 どう見ても苦しそうな彼女の様子に、背筋を何か冷たいものが這うような感覚を覚えた。
 傷つけたいわけじゃなかった。
 苦しませたいわけじゃないのに。
 が腕を上げて、その両の掌で自分を見下ろす佐助の頬に触れる。
 その、震える手指が、頬を撫でる。
「――侮る、な」
「え」
「このようなもの、痛いうちには、入ら、ない」
 途切れがちな声色で、それでもその深い色の瞳はまっすぐと佐助の眼を見据えて、は言う。
「どのような貴方も、受け入れると、言ったぞ」
 その瞳からは、力強い光が消えない。
「見せてくれ、貴方の、こころの内のすべてを」
「――ッ」
 ぱた、との頬に、水滴が、落ちた。
「・・・・・・佐助?」
 の、佐助の頬に添えていた手の親指が、佐助の目元をぬぐう。
「泣いて、いるのか」
「・・・・・・んーん、汗がさ、眼に入った」
「そうか」
「ねえ、動いていい?」
「貴方が気持ち良いようにすればいい」
「ちょっと、も気持ちよくならなきゃ意味ないんだけど」
「・・・・・・それは難しい相談だな」
 眉を顰めるの、その眉間に佐助は唇を落とす。
 そして、腰を動かし始めた。
「――ッ、ィあ、あ」
 途端に悲鳴のような声を上げるの、足の付け根のそこに指を這わせる。
「、ン、あ」
 卑猥な水音をたてるそこから溢れ出ているものを、塗りつけるように擦れば、の声に甘いものが混じるようになる。
「あ、ァあッ」
「まだ、痛む?」
 聞くと、は首を横に振る。
「痛く、など、ッ」
 おそらくはまだ強がりだと思われたが、先ほどよりは、その顔にも血の気が戻ったように見えて、それ以上は佐助にも余裕がなかった。
 欲望のままに、最奥に叩きつける、そのたびにの身体が跳ねる。
「ッは、も、」
 イく、そう思った瞬間、暖かな感触が、背に触れる。
 に、抱きしめられているのだと気付いて、佐助は眼の奥が熱くなるのを感じながら、腰を打つ。
「あ、アァ、ア!」
「ッく・・・・・・ッ!!」
 腕の中のを、きつく抱きしめて、佐助はその欲望を吐き出した。
「・・・・・・ッは、」
 はー、はー、と獣のような音が耳に障る、自分の呼吸の音だと気付くのにしばらくかかった。
 そして、同じく放心したように呼吸を繰り返しているに、そうっと口づけた。

「ん」
「――愛してる」
 背に回されていたの掌が、佐助の頭を優しく撫でた。
「――わたしも貴方を愛している、佐助」
 その言葉に、己の熱が引いて行くのがわかった。
 「愛」、なんて薄っぺらい言葉だろう。
 がどうしようもなく大切で、その感情を言葉にするなら愛なのだろうと思って口に出した。
 なのに、その言葉が己に向けられることに、ひどい違和感を感じる。
 心の臓が冷たい、言うなればそれは恐怖に近い。
 どうして。
 このひとは、こんな顔で、
 どうして、
「どうして、俺を愛するなんて、言えるの」
 およそ温度を感じさせないような、外界の全てを拒絶するようなその声に、しかしは、涙に濡れた眼で、まっすぐと佐助の眼を見上げる。
「くだらないことを聞くな」
 その微笑みが、眩しい。
「わたしが、そう思うからだ」

 その言の葉は、佐助を闇から引き揚げてくれる、一筋の光だった。


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20120726 シロ@シロソラ